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開業初年度300万人突破!“エスコンフィールドHOKKAIDO”が前本拠地時代の約4倍の収益をたたき出した舞台裏とは?

北海道日本ハムファイターズが2023年より移転した新本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」。前本拠地の札幌ドーム時との比較で約4倍の収益をたたき出し、大成功を収めている。その裏には民間企業が自ら建設し、運営する〝民設民営〟の経営形態があった。「エスコンフィールドHOKKAIDO×南原清隆~常識を覆す経営の裏側~」では、その経営現場に直撃。この成功の裏には「官民連携」の協力体制が欠かせないパーツであることが分かった。※トップ画像出典/Getty Images(写真は札幌ドームの外観)

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開業初年度から来場者数346万人を達成した根底の考え

数字に成果が表れている。開業初年度の2023年、エスコンフィールドHOKKAIDOの収益は札幌ドーム時代の4倍となる34億円をたたき出した。来場者数は目標を大きく上回る346万人。そのうち、42%の145万人が野球観戦以外を目的に訪れた。

新球場のプロジェクトを1から立ち上げたのは、北海道日本ハムファイターズのスポーツ&エンターテインメント常務取締役にして、事業統括本部長の前沢賢。前沢は、新球場の構想初期段階の企画書に目を通しながら「今のイメージと近いですね」と、つぶやいた。

企画書に描かれていたのは、球場の周辺にショッピングセンターや学校がある複合商業施設だった。実際のエスコンフィールド周辺施設と大きく変わらない。根底にあるのは、野球ファン以外に狙いを定めた独自のスタイルだ。

自前球場だからこそのメリット

かつての本拠地とは真逆の特徴がある。前本拠地の札幌ドームの経営形態は、国や地方公共団体が運営する〝公設公営〟。札幌市が建設、運営していたため、広告や看板の収入が日本ハムには入らなかった。いわば、ローリスク・ローリターンのスタイルだった。

一方、エスコンフィールドは民間企業が運営する〝民設民営〟。自前で思い通りに建設から運営ができ、収益の全てがチームに入る。いわば、ハイリスク・ハイリターンだ。そのため、親会社を説得するのには苦労があった。「本業ではないものに数百億円の投資は、僕が逆の立場だったら『ふざけんな』と言っていたと思う。だから『北海道のため』、『会社・業界のため』というのは人一倍強く、ダイレクトに伝えました」。決して野球のためだけではない。自前のスタジアム建設には、信念があった。

民設民営だからこそ、頼れる存在には力を借りた。新球場における経営方針に「『必ずみんなで作る』、『自前主義をやめる』」を掲げた。前沢はその理由を次のように説明した。「日本人は、外部の人を入れずに自分たちだけでやろうとする。我々にはアドバイスしてくれる『おじさん』たちがいたので、一緒に入ってもらって。そして仲間で入ってくれた人には出来るだけ情報を公開していました」。

自前球場でありながら、多種多様な企業の力を結集させた。それは民間だけでなく、行政にもおよぶ。様々な力を借りた、その1つがインフラ整備。同球場の周辺道路は、北広島市が新たに作ったもの。すべての道路を札幌市に繋がる国道へと繋げ、利便性を向上させた。

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KUBOTA AGURI FRONT(画像提供/株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント)

その行政が期待を寄せる施設がある。農業学習施設「KUBOTA AGURI FRONT」だ。ゲームのような農業経営のシミュレーションを有した“北海道の農業とはなにか”を学べる施設だ。

前沢が「同志。この人がいなくては、成り立たなかった」と、新球場設立のキーマンに挙げる北広島市の副市長・川村裕樹。川村もまた、エスコンフィールドHOKKAIDOに大きく期待を寄せる。「エスコンに来た人が北海道に触れられる。教育旅行の一つとして修学旅行生がすごく来ます」と川村は語った。実際に2023年3月~2024年3月の1年間で、計7万3000人の来場者を集め、修学旅行や課外活動の場として全国各地から注目を集めている。

もちろん、球場にも子どもたちを楽しませる仕掛けが多く詰まっている。ライトスタンドのすぐそばには有料のキッズエリアがあり、球場の遊技場とは思えない本格的な遊具が楽しめる。川村は「北海道には有料の遊び場がないので、どうかなと思っていました」と当初は不安視したが、現実はいい意味で違った。「試合がない日でも遊びに来ているんです」。

球場に隣接した公園には、小さな野球場がある。ここには、おもちゃのバットやボールが常設され、子どもたちは自由に遊ぶことができる。「これがもし市役所だったら絶対に管理部を作ってます」と川村は笑う。球場の至る場所に、民設民営のメリットが散りばめられていた。

「かなりの額を補強費に」 エスコンが導くチームの未来とは

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野球場イメージ(イラスト/vaguely)

北海道日本ハムファイターズは、野球ファンだけではないターゲット層を取り込み、収益を増加させた。そして、これからの目標に“収益以上の価値が生まれること”を掲げている。

前沢は収益の使い道について「(球場を建てる費用となった)お金を返さなきゃいけない。家で言うローンがあるので。また、施設でいろいろな改修や新たな取り付けがあるので、それだけで数十億円になる」としながらも、「一番重要なのは、チームへの強化費」と話す。新球場を設立した2023年の末から「かなりの額を補強費に充てられるようになった」と明かした。

チームとは密接に話し合いを重ねる中で「6年に1回優勝出来るチームづくり」を目標にしているという。「球団はチームと事業が両輪にある。お互い信頼関係はありますし、何でもかんでも言うし、言われることもある。でも、それが健全かなと思う」。球場が生んだお金を、球団へ。このサイクルが出来たからこそ、未来は明るい。

今は新球場が設立されたばかりで“新鮮さ”が集客にも繋がっている。今後の見通しについては「新しく出来たものを『そのまま』では良くない。去年ダメだったところを、スクラップ&ビルドでどんどん新しくいいものに変えていくことは取り入れてます。その意識は今後10年先も変わらないことかな」と語り、現状に満足してはいない様子だ。民設民営の経営形態を手にしたファイターズは、球団経営の枠に捉われない進化を目指す。パリーグの常勝軍団として定着する未来も、そう遠くないのかもしれない。


GETSPORTS特別編:「スポーツ経営ってナンなんだ!?」
エスコンフィールドHOKKAIDO×南原清隆~常識を覆す経営の裏側~』より

配信日:2024年5月10日(金)

※記事内の情報は放送当時の内容を元に編集して配信しています