BCリーグからNPBへ虎視眈々 存在感見せる二人の捕手とリーグ三冠外野手 ドラフト候補の逸材たちが挑むショーケース
ルートインBCリーグ選抜とNPBファームとの交流戦が、今年も6月に3試合行われた。6月5,6日(6日は非公開)には横須賀スタジアムで横浜DeNAベイスターズファームと対戦。6月20日には山梨YBSスタジアムにて埼玉西武ライオンズファームとの対戦が組まれた。シーズン中のいわば「中間試験」として、スカウトの熱視線が注がれた。
今季のBC選抜チームの中で、ドラフト候補の筆頭に上がるのは二人の捕手だ。21歳の町田隼乙(埼玉武蔵)と24歳の大友宗(茨城)。対照的な経歴を持つ二人の捕手が、ドラフトに向けてしのぎを削りながら、互いに刺激を受け合って成長している。
高卒3年目の大器
高卒1年目から正捕手として経験を積んだ町田隼乙(筆者撮影)
町田隼乙(捕手 光明相模原→埼玉武蔵ヒートベアーズ 21歳 186cm 88kg 右投右打)
選抜3試合全てに出場。6日は2安打で二塁打も放った。
高校から注目されてきた強打の大型捕手。BC埼玉武蔵に入団後は一年目からマスクをかぶり続けた。二年目の昨季は打撃こそ好調だったものの、スローイング難を克服できず、盗塁阻止率は2割を割っていた。
今季そのスローイングが改善されてきたのは大きい。二塁送球は「練習時の最速は1.81秒」。試合でも1.8秒台後半をマークしている。
オフには2年連続で阪神タイガースの春季キャンプにブルペンキャッチャーとして参加しており、NPB投手の球を受け続けた。キャッチングは阪神投手からも評価が高く、捕手練習に参加させてもらう恩恵も得た。
阪神キャンプでの経験はバッティングにも生きている(筆者撮影)
6月20日時点での打率は.359と好調。昨季からの違いとしては「打ち方を考えるのは打席に入る前まで。打席では相手投手のことだけ考えられるようになってきて余裕が出てきた」という。今季は打点も上位に入り、チャンスに強くなった。
開幕からずっと四番を担う上にキャプテンに就任し、今は文字通りチームの大黒柱。
「プレッシャーは多少ありますが、重圧ではありません」
精神的な成長も顕著だ。
課題としてはホームランの数を挙げたが、「狙うと力んでしまうので狙いません」。若さを武器に、支配下指名を狙う。
総合力最強の捕手
打率こそ高くはないが非凡な打力を見せる大友宗(筆者撮影)
大友宗(捕手 帝京大→日本通運→茨城アストロプラネッツ 24歳 181cm 88kg 右投右打)
6月5日、6日に出場し、6日に1安打。グラウンドでの存在感は大きく、キャッチングやスローイングの技術も確か。鋭いスイングで本塁打を量産する。視野が広く新入団ながら投手陣の信頼も厚い。現在の独立リーグ全体で見ても、これほど総合力の高い捕手は他にいないだろう。
大学時代から強打で注目された存在だった。日本通運では木南了という日本代表捕手に出場機会を阻まれたが、その選手が間近にいたことで、捕手として「すごくプラスになった」と大友は言う。
町田に負けず「自分もまだ成長します」(筆者撮影)
ドラフト指名のため、大企業を退社してでも自らを追い込み、「1年だけ」の覚悟で独立リーグの門を叩いた。今季開幕戦から豪快な本塁打を放って見せ、3打席連続本塁打という離れ業もあったが、故障で離脱した時期を経て、今は巻き返している最中だ。
「日通の時も野球だけをやらせてもらっていましたが、寮でしたし、環境は恵まれていたと思います。今は一人暮らしで自炊もしています」
SNSを使い、自ら動画や投稿をアップしている。大友の練習動画は、ライバルの町田も見て参考にしているほど。独立リーグでは捕手を教える指導者のいないチームも多い。捕手同士、敵ではあるが高め合う仲間でもある。
左から大友宗(茨城)、井上翼(神奈川)、町田隼乙(埼玉)のBC選抜捕手陣(画像提供:町田隼乙)
大友は選抜戦後に「楽しむことの重要性を再確認」と投稿した。ハングリーに自分を追い込みながらも、それを楽しむ精神力がある。
有力な捕手の候補が少ないといわれる今年、25歳になる大友にもチャンスはある。
他の野手にも光る存在が多い。特に注目したいのがリーグ三冠を走る石川慧亮(栃木)だ。
高卒4年目の三冠打者
昨年からさらに打力を伸ばした石川慧亮(筆者撮影)
石川慧亮(外野手/内野手 青藍泰斗→栃木ゴールデンブレーブス 22歳 174cm 86kg 右投右打)
今回3試合全てに選抜されたのは、町田隼乙とこの石川慧亮のみ。高卒一年目から四番に座った逸材で、リーグ内では屈指の強打者だ。
選抜戦ではヒット1本に終わったが、今季のリーグ成績は圧倒的。6月20日現在で、本塁打と打点はリーグトップ、打率はトップタイと三冠を走っている。本塁打とともに長打が多く、長打率は.853、OPSは1.330と抜きんでた成績だ。
「狙っているのは長打率ですね。逆にホームランの数は自分でもびっくりしてます」
BCリーグでは4年目。毎年ドラフト候補と言われ続けているだけに、昨季からの大きな成長を示す必要がある。その点、圧倒的な数字を出していることは好材料だ。
「力はもちろんついてるんですが、一番変えたのは考え方です。今まではストレートを打っていて、変化球で打ち取られることが多かった。変化球を待つようにして、まっすぐを張るときは張る。基本は変化球待ちにしたことで、引き付けられてボールをよく見られている。打率も上がり、逆方向にホームランが出たりもしています」
悔しい思いを重ねただけに今年に賭ける思いは人一倍(筆者撮影)
これからのシーズンに向けては、「結果はもちろん必要なんですけど、自分が出来ることを精一杯やろうということしかないですね。どうしてもNPBに行きたいので」
20日の最終打席では三振に終わったものの、特大ファールを打って場内を沸かせた。まだまだこれから観客を魅了するプレーが見られるはずだ。
群雄割拠の投手たち
この選抜戦3試合では、計23人の投手がピックアップされ1イニングずつ登板した。何人かの名前を挙げておきたい。
クレバーなサイドスロー
ファンからも親しまれている竹本徹(ルートインBCリーグ提供)
竹本徹(投手 大阪観光大学→栃木ゴールデンブレーブス 23歳 175cm 83kg 右投右打)
6月5日の横浜DeNA戦に登板し1回無失点。大阪観光大学出身で中日ドラゴンズに育成指名を受けた尾田剛樹は直接の先輩にあたる。尾田の背中を追って同じBC栃木へと飛び込んだ。サイドスロー右腕で、オープン戦から152キロを出して話題になった。5月22日に行われたヤクルト二軍との練習試合では、2回を無失点に抑えている。
一番自信があるのはやはりサイドスローからの速いストレートだ。空振りの取れる威力があり、打者にとってはタイミングの取りづらさもある。
「ストレートはある程度通用していると思うんですが、変化球の精度だったりカウント球を打たれる場面がありました。そういうところもNPBの選手相手に通用するかどうかを意識しました」
BC選抜での試合に続き、6月23日の巨人三軍戦では、8回1失点完投(雨天コールド)と好投した。
登場曲の「タケモトピアノ(CMソング)」が強い印象を残す。ビジターの試合で登板する時には、栃木の応援席でファンが歌うほど定着している。「元々は高校で打席に入るときに、同級生の応援団長がやってくれていた」という、本人にとって長く親しんできた歌。「自分を覚えてもらいたい」という意識も強い竹本が、結果でアピールする。
ポテンシャル大の本格右腕
BCリーグ2年目で頭角を現してきた石川颯(筆者撮影)
石川颯(投手 千葉商科大学中退→福島レッドホープス 24歳 182cm 81kg 右投左打)
6月20日西武戦で最終回に登板し、150キロ台を計測した投手。先頭を四球で出したが、絶妙のフィールディングを見せ、能力の高さを印象付けた。投手になってからはまだ3年と日が浅く、球種や制球面では粗削りなところもあるが、威力あるストレートには魅力がある。リーグ戦では主にリリーフとして、30試合消化時点で既に23試合に登板。防御率は2.28。登板数は気になるが、タフネスとシーズンでの成長を期待したい。
鉄壁のリリーバー
今季これまで僅か1失点の重吉翼(ルートインBCリーグ提供)
重吉翼(投手 国士館大学→神奈川フューチャードリームス 23歳 184cm 86kg 右投右打)
6月5日に登板。この日の最速は145キロだった。最速151キロ右腕。日本航空石川高校では春に甲子園も経験し、奥川世代の投手として台頭した。
リーグ戦では鉄壁リリーバートリオの一角として登板。16試合16回を投げて防御率0.56。リーグ戦を通じてわずか1点しか失点していない。
ストレートの出力が高く、スライダー、フォーク、カーブと組み合わせたピッチングで打者を圧倒する。
神奈川フューチャードリームズは2019年創設以来NPBドラフト指名選手は出ていないが、初のドラフト指名に期待がかかる存在だ。
「中間試験」からが本当の勝負
ドラフト会議は秋。これからリーグ戦で猛暑の連戦をどう乗り切るか、後半にどうピークを持って行くかも重要になる。まだ「中間試験」が終わったばかり。今回選抜されなかった選手にも十分チャンスはある。
若い選手たちだけに、驚くほどの成長が見られるのも独立リーグの醍醐味だ。是非球場にも足を運んで見てもらいたい。