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「僕のユニフォーム見えた」神宮に帰ってきた由規がレジェンド始球式 独立リーグで現役続行中

「神宮のマウンドからは、どこよりも一番スタンドが近くに感じます」 ヤクルト球団設立55周年の今年、数々のレジェンドが招かれ、再び神宮球場の土を踏んできた。その中に、いまだ現役を続けながら「レジェンド」として帰還した選手がいる。由規こと佐藤由規。2007年に甲子園最速の155キロをマーク。スワローズでの2010年には、神宮球場で161キロ(当時日本人最速)を記録した投手だ。※トップ画像/筆者撮影

Biểu tượng img 20200702 114958Naoko Inoue | 2024/10/03

161キロを計測したバッテリーが一日限りの復活

昨年からはフォームを変え、高校時代のようなワインドアップに(筆者撮影)

9月19日の広島戦で、6年ぶりにスワローズのユニフォームに袖を通した由規が、ファーストピッチセレモニーに臨んだ。捕手は161キロのボールを受けた川本良平。思い出の神宮で、由規は万感の一球を投じた。

「当時の登場曲も流してくださって、感極まるところはありました。こういうすごいところで投げてたんだなと」

独立リーグで兼任投手コーチを務める日々

BC埼玉では投手コーチ兼任で先発投手として投げ続けている(筆者撮影)

由規は、スワローズを退団後、東北楽天を経て、2021年からルートインBCリーグ・埼玉武蔵ヒートベアーズに在籍している。34歳の今も、現役選手だ。

2022年にコーチ兼任となった後、台湾プロ野球の楽天モンキーズからオファーを受けて渡台。外国人助っ人としてプレーした。2ヶ月で退団となったが、再びコーチ兼任の投手としてBC埼玉に復帰している。

今季の成績は11試合に投げて3勝6敗。途中故障で離脱するなど不本意なシーズンだったが、今季も最高球速は149キロと健在だ。

懐かしいユニフォームにはこだわりも

この日、由規はスワローズでの活躍当時を彷彿とさせるデザインのユニフォームで現れた。

「ファーストピッチセレモニーの話が来たのは、6月くらいですね。現役の投手が投げるのは珍しいと思うんですが、球団からは現役なので『本気で投げますか』と聞かれました」

由規の希望としても「本気で投げたい」と伝えた。他のレジェンドたちがユニフォームの上だけを着用していたのに対して、由規は上下を用意されたのは、そのためだろう。

「帽子は用意して頂いたものが当時と少し形が違うので、自分で当時のものを持ってきました」

細部にこだわりを見せる由規は、その日を楽しみにして備えていた。

この日のために「一球だけ」の練習を重ねた

始球式でスパイクは履けないため、ランニングシューズでのピッチングになる。普段とは違う状態に慣れるため、チームで練習するときも、普段あまり履かないランニングシューズを履いた。本番は「一球」勝負。捕手に頼んで「一球だけ」のピッチングをして備えた。

9月19日。試合前にはチームの練習場所であるコブシ球場でキャッチボールをさせてもらい、川本さんに「座ってください」と頼んで受けてもらった由規。引退を決めた青木宣親への挨拶も出来た。

いざ神宮球場のマウンドへ

パトリック・ユウさんの紹介を受ける由規(筆者撮影)

いざユニフォームに身を包むと、緊張感が増す。

「まるで今日からキャンプインする、みたいな気分でしたね」

ビジョンには神宮で躍動していた由規の映像が映し出され、スタジアムDJのパトリック・ユウさんが由規を紹介する。在籍当時使っていた登場曲が流れる中、マウンドに上がった由規は、四方に丁寧にお辞儀をした。

「ふわふわする感じで、ゆっくり足上げた方がいいかな、とか、クイック気味で投げる方が球速が出るかな、とか考えていたんですけど、全部飛んで。初めて投げ方が分からなくなりました」

131キロのストレート「投げる瞬間は覚えていない」

ストライプのない思い出の復刻ユニフォームでマウンドへ

「普通の始球式だったら選手が守備について、バッターが打席に立ちますけど、僕のときは選手はベンチだし、バッターはいないし。普通は球審が『プレイボール』って声をかけて始めるけど、球審がつば九郎だからジェスチャーだけだし(笑)」

球場の全ての目が由規に向かう。マウンドでの時間はあっという間でよく覚えていないというが、それでも「僕のユニフォームやタオルが見えていた」と振り返る。スワローズを退団してから6年。12球団合同トライアウトで、再び神宮を訪れてからもう4年だが、スワローズファンは由規を忘れていなかった。

「一球だけ」の練習を重ねて投じたストレートは131キロ(筆者撮影)

ふりかぶり、投じたストレートは外角へ。球速表示は131キロだった。すぐにスコアボードを振り返った由規は、あーっと悔しがるような表情を見せた。

シーズンの最終登板は9月1日。実戦からは遠ざかっていた。スパイクを履いていなかったこともあり、最高の球を投げられるシチュエーションではなかったかもしれない。それでも、「一回限りだからこそ、いい思い出になった」と言う由規。神宮での特別な「一球」を、ファンは目に焼き付けた。由規は、以前と変わらない少年のような笑みを浮かべ、観客に向けて深々と頭を下げた。

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投球を終え、笑顔を見せる由規(筆者撮影)

神宮で初めてビールを飲んだ日

スワローズを退団してからも、プライベートで神宮を訪れることは何度もあった。今年になってから、初めて神宮でビールを飲んだという由規。

「すごくやりたかった、というわけではないんですが、試合を見ながらお酒を飲む、という感覚が新鮮でした」

この日ファーストピッチセレモニーを終えた後には、解説席にゲストとして登場もした。実況は以前から交流のある向坂樹興アナ。解説はスワローズの先輩でもあり、楽天時代、そしてBCリーグでも接する機会の多かった館山昌平さん。館山さんからは「緊張しすぎでしょ」「現役だからもっと速いと期待した」と言われたそうだ。

「神宮のマウンドからの景色は好きですね。やはり屋外球場が好きですし、ほかの球場より観客席がすごく近く感じます。今日も、マウンドからも放送席からも、僕のユニフォームやタオルがたくさん見えて、すごく嬉しかったです」

つば九郎とのツーショットも撮影(筆者撮影)

注目する選手は「一緒に戦っていた選手と、若手では翔聖」

セレモニーの慌ただしさの中、スワローズの選手とは、ゆっくり話をする時間はなかった。だがゲスト出演を終えた後も、スタンドで試合を観戦した由規。「やはり一緒に戦っていた選手は注目していますね」と、山田哲人、村上宗隆、青木宣親、原樹理といった選手の名を挙げた。

「二軍の試合も結構見ていますよ。若手で名前を挙げるとすれば、台湾から指名された翔聖選手。僕が台湾に行っていた時にもリストアップされてたんですが、多分日本に行くんだろうと言われていました。しなやかで身体が柔らかい。面白い投手ですね」

注目の山田は、解説席にいた由規の目の前でホームランを放った。5回にはサンタナの3ランホームランも飛び出して、スワローズが見事な逆転勝利。神宮球場は大歓声に包まれた。思い出深いデザインのユニフォーム上下は、その日のうちに持ち帰れたそうだ。数ヶ月の高揚をもたらした一球のあと、由規はまた現在の球団へ帰っていく。最近では脳科学など勉強の手も広げながら、選手としても指導者としても努力を続ける毎日だ。ファンにとっても由規にとっても、胸に残る大切な一日となった。