「マシンガン打線で優勝」!県民球団・神奈川フューチャードリームスがホームで待望の船出
野球どころ神奈川に生まれたルートインBCリーグの球団「神奈川フューチャードリームス」。球団は生まれて早々に、コロナ禍で前途多難な状況に陥った。開幕まで2か月もの延期を経て、当初の予定とは全く違う形でリーグ戦が始まった。今年のBCリーグ東地区は、グループBとして神奈川フューチャードリームスと埼玉武蔵ヒートベアーズが、60試合中40試合を戦う予定となっている。平塚で迎えたホーム開幕戦、神奈川は惜しくも埼玉武蔵に敗れた。しかし、錚々たる指導者と光る選手が集うチームだ。新規参入初年度優勝も決して夢ではない。
Naoko Inoue
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2020/07/06
雨が上がった平塚球場には、既に夏の空気が漂っていた。大きな声を掛け合ってグラウンドへ飛び出すナイン。真新しい新生球団のユニフォーム。2020年6月23日。ルートインBCリーグに新規参入した「神奈川フューチャードリームス」がホーム開幕戦を迎えていた。
相手は同じ東地区グループBの埼玉武蔵ヒートベアーズ。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、当面の試合は無観客で行われる。
遠方への移動を避けるため、12球団が3つに分けられた今季、神奈川球団は埼玉武蔵と、実に60試合中40試合を戦う変則リーグ戦になっていた。その初顔合わせ、どちらのチームも相手の練習を食い入るように見つめる。プレイボールの声が響いた。
16,000人収容のスタジアムには、ボールの音とミットの音、選手の出す声が大きく反響する。屋根もついた広いスタンドには、僅かなスタッフと報道陣、何人かのスカウトのみ。
「2時間45分を超えたら次のイニングに入らない」という特別ルールもある。普通に進行していくと、7回ほどで終わる時間だ。今季は制限時間も見据えて投手を使うことになる。試合は接戦となった。
「BCリーグ」ことベースボール・チャレンジ・リーグは「ふるさとにプロ野球チームを」という理念で2007年に生まれたプロ野球独立リーグである(2014年よりルートインBCリーグ)。
当初は北信越4チームだったが、年々参入チームが増えている。今季からは新規参入の神奈川を加え、12県を本拠とする12球団が優勝を争うこととなった。プロとしてレベルの高い野球を見せ、地元を盛り上げる。
また、子供たちに夢と憧れを持ってもらい、野球の裾野を広げることを目指す。一方で、若い選手たちを技術的にも人間的にも育て、NPBへ選手を輩出することも大きな目標だ。
神奈川といえば野球どころで、野球の好きな人が多い。そして横浜DeNAベイスターズも非常に人気がある。そこへ生まれた独立リーグのプロチーム。しかも、首脳陣として招聘するのは鈴木尚典監督、山下大輔GM、荒波翔球団アドバイザー兼任コーチという錚々たる顔ぶれだ。話題にならないわけがない。
「横浜DeNAベイスターズも神奈川フューチャードリームスも、両方好きになっていただければ」と鈴木監督も言う。最初は首脳陣で興味を持ってもらい、そこからずっと好きになってもらう魅力的な球団に出来ればと考えている。
「目指すのはマシンガン打線です」。二年連続首位打者、ベストナイン、日本シリーズMVPなど、数々の栄光を掴んだ自身の経験と技術を、若い選手たちに注入するつもりでいる。
本来ならば、ホーム開幕戦は4月18日に華々しく横浜スタジアムで、中畑清氏を招いて行う予定だった。ところが降って湧いたコロナ禍のため、ほぼ全てのイベントは中止になり、練習すら出来ない日々が続いた。規模が小さく資金も人も少ないBCリーグ球団で、しかもまだ固定ファンも見込めていない新生球団の苦労は想像に余りある。
しかし苦境にも負けず、SNSを駆使してグッズを販売したり、動画や記事を発信したり、選手も球団スタッフもファン獲得の努力を続けてきた。6月に入ってようやく練習が再開し、対外試合も解禁となった。2ヵ月ほどの延期の後に、短い準備期間で漕ぎつけたルートインBCリーグの開幕。球団にとっても選手にとっても、ここからが本当のスタートだ。
年間70試合から60試合へと試合数は減り、対戦相手も減った。しかしそれでもチームの優勝を目指し、それぞれがNPBのドラフト指名を狙ってアピールする場は残っている。
選手たちの士気は高い。まだ無観客とはいえ、試合はネットで中継される。スタッフがカメラを通じて選手の姿や声を配信する。まだ見ぬファンへ向けて、彼らは活躍を誓う。地元出身の選手が多いBCリーグだが、神奈川は特に多い。地元の試合に出れば盛り上がるだろう。
6月21日、ビジターで迎えた茨城アストロプラネッツとの開幕戦は、6-2の快勝。続いてのホーム開幕戦だったが、雨で一日延期になった。
23日先発の乾真大投手兼任コーチは、NPB日本ハムと巨人で合わせて8年、BCL富山で2年の経験を持つベテラン左腕だ。
スライド登板にも「全然影響ない。普通です」と自然体でマウンドに立った。初回はいきなり連打を浴び、足に打球を受けるアクシデントもあった。エラーから1点は失ったものの、その後は丁寧なピッチングで、当初からの予定通り5回を投げきった。
打線は1回裏に4番カレオン・ジョニル・マラリのタイムリーで同点。4回裏には6番須藤優太がヒットで出た後、二盗三盗を続けて決め、9番森田球斗の犠飛で勝ち越した。
6回表から二番手として、横浜DeNAから派遣された育成選手のレミー・コルデロが登板したが、制球に苦しみ逆転を許した。埼玉武蔵は継投で逃げ切り、そのまま2-3で制限時間終了。神奈川のホーム開幕戦勝利はならなかった。
先発の乾は「最低限です。良くもなく悪くもなく、70点の投球」と自己の投球を振り返ったが、鈴木監督は「これからも先発の柱になる」と評価する。直球と変化球で緩急を使い、8三振を奪って5回1失点。試合を作った。
マウンドを降りた後は、ブルペンで登板予定の投手の様子を確認し、ピンチにはマウンドへ声を掛けに行くなど、投手コーチとしての役目に奔走する。兼任コーチとしては、2019年の富山に続き2年目だ。関西出身だが、大学時代から関東にいたため、関東が落ち着くという。
「平塚球場はイースタンっていうイメージですから。ここでBCリーグの試合というのが、何だか新鮮でした」。
バッテリーを組んだ清田亮一捕手もベテランで、打っては2安打と攻守に存在感を見せた。BCL福井から引き続きコーチ兼任となる。ゼロから始まった新しいチームの中で、両ベテランと、初代キャプテンでBCL群馬から移籍した青木颯内野手、そしてBCL埼玉武蔵や福島を渡り歩いてきた奈良雄飛外野手など、経験豊富な選手たちが、まずチームを引っ張っていくことは間違いないだろう。
そして、経験の浅い若い選手たちが、どう育っていくかがこのチームのカギだ。とにかく素晴らしい指導者が揃っている、願ってもない環境なのだから。必死で努力し、たくさんのものを吸収し、大きな成長を見せてくれれば、新規参入初年度優勝も夢ではないだろう。
150km/hを出し、元バドミントン部ということで注目された杉浦健二郎投手、神奈川出身でWBCのフィリピン代表に選ばれたカレオン外野手など、光る素材は多く揃っている。
コルデロ、ディアス、宮城滝太の三投手、デラロサ内野手というDeNAから派遣された育成選手たちも、この日はまだ合流したばかり。
どんな選手かどうやって試合に出していくか、首脳陣が考えてチームを作っていくのはこれからだ。 フューチャードリームスには、元NPBのレジェンド首脳陣だけでなく、アマチュアの指導者として輝かしい経歴を持つコーチも名を連ねている。
林裕幸ヘッドコーチは、NPB経験はないが、日本石油、日石三菱、新日本石油、明治安田生命と、多くの社会人チームで監督を歴任。幾多の選手を育成指導し、チームを勝利へと導いた経験を持つ。
シドニー五輪では日本代表チームのコーチも務めている。当年とって65歳だが、試合前にはノックバットを握り、試合中には三塁ベースコーチに立つ。打席に向かって絶え間なく檄を飛ばす姿は印象的だ。
この日はチャンスで打てず、悔しい思いをした選手もいたが、林コーチは「寝られないほど悔しい思いをすればいい」と笑った。
「明日は休みなんだけど、後で何をしたか訊くつもり」悔しい思いをした後に、どれだけバットを振ったか。どれだけ悔しさを成長の糧と出来るのか。
「いいね、BCリーグはいい。お客さんはプレーを見に来る。アマチュアは1回負けたら終わりだから」1回負けた。悔しい思いをした。そうして、次の試合に備える。眠れないほど悔しい思いを野球にぶつけて、ひたすら野球に打ち込む。全てを野球に賭けられる環境が、BCリーグにはある。
今年はまだこのあと、同じ相手と幾度となく対戦していく。事実、リベンジするチャンスはすぐにやって来た。6/27の鴻巣では再び埼玉武蔵と対戦し、6-4で勝利した。7月に入ってからビジターで埼玉武蔵、茨城相手に連勝。ホームでの勝利もすぐだろう。
2020年のチームスローガンは「未来へ翔く夢への一歩」。それぞれが持つ翼を鍛え上げるために、指導者たちは力を惜しむつもりはない。
神奈川フューチャードリームス公式サイト
相手は同じ東地区グループBの埼玉武蔵ヒートベアーズ。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、当面の試合は無観客で行われる。
遠方への移動を避けるため、12球団が3つに分けられた今季、神奈川球団は埼玉武蔵と、実に60試合中40試合を戦う変則リーグ戦になっていた。その初顔合わせ、どちらのチームも相手の練習を食い入るように見つめる。プレイボールの声が響いた。
16,000人収容のスタジアムには、ボールの音とミットの音、選手の出す声が大きく反響する。屋根もついた広いスタンドには、僅かなスタッフと報道陣、何人かのスカウトのみ。
「2時間45分を超えたら次のイニングに入らない」という特別ルールもある。普通に進行していくと、7回ほどで終わる時間だ。今季は制限時間も見据えて投手を使うことになる。試合は接戦となった。
「BCリーグ」ことベースボール・チャレンジ・リーグは「ふるさとにプロ野球チームを」という理念で2007年に生まれたプロ野球独立リーグである(2014年よりルートインBCリーグ)。
当初は北信越4チームだったが、年々参入チームが増えている。今季からは新規参入の神奈川を加え、12県を本拠とする12球団が優勝を争うこととなった。プロとしてレベルの高い野球を見せ、地元を盛り上げる。
また、子供たちに夢と憧れを持ってもらい、野球の裾野を広げることを目指す。一方で、若い選手たちを技術的にも人間的にも育て、NPBへ選手を輩出することも大きな目標だ。
神奈川といえば野球どころで、野球の好きな人が多い。そして横浜DeNAベイスターズも非常に人気がある。そこへ生まれた独立リーグのプロチーム。しかも、首脳陣として招聘するのは鈴木尚典監督、山下大輔GM、荒波翔球団アドバイザー兼任コーチという錚々たる顔ぶれだ。話題にならないわけがない。
「横浜DeNAベイスターズも神奈川フューチャードリームスも、両方好きになっていただければ」と鈴木監督も言う。最初は首脳陣で興味を持ってもらい、そこからずっと好きになってもらう魅力的な球団に出来ればと考えている。
「目指すのはマシンガン打線です」。二年連続首位打者、ベストナイン、日本シリーズMVPなど、数々の栄光を掴んだ自身の経験と技術を、若い選手たちに注入するつもりでいる。
本来ならば、ホーム開幕戦は4月18日に華々しく横浜スタジアムで、中畑清氏を招いて行う予定だった。ところが降って湧いたコロナ禍のため、ほぼ全てのイベントは中止になり、練習すら出来ない日々が続いた。規模が小さく資金も人も少ないBCリーグ球団で、しかもまだ固定ファンも見込めていない新生球団の苦労は想像に余りある。
しかし苦境にも負けず、SNSを駆使してグッズを販売したり、動画や記事を発信したり、選手も球団スタッフもファン獲得の努力を続けてきた。6月に入ってようやく練習が再開し、対外試合も解禁となった。2ヵ月ほどの延期の後に、短い準備期間で漕ぎつけたルートインBCリーグの開幕。球団にとっても選手にとっても、ここからが本当のスタートだ。
年間70試合から60試合へと試合数は減り、対戦相手も減った。しかしそれでもチームの優勝を目指し、それぞれがNPBのドラフト指名を狙ってアピールする場は残っている。
選手たちの士気は高い。まだ無観客とはいえ、試合はネットで中継される。スタッフがカメラを通じて選手の姿や声を配信する。まだ見ぬファンへ向けて、彼らは活躍を誓う。地元出身の選手が多いBCリーグだが、神奈川は特に多い。地元の試合に出れば盛り上がるだろう。
6月21日、ビジターで迎えた茨城アストロプラネッツとの開幕戦は、6-2の快勝。続いてのホーム開幕戦だったが、雨で一日延期になった。
23日先発の乾真大投手兼任コーチは、NPB日本ハムと巨人で合わせて8年、BCL富山で2年の経験を持つベテラン左腕だ。
スライド登板にも「全然影響ない。普通です」と自然体でマウンドに立った。初回はいきなり連打を浴び、足に打球を受けるアクシデントもあった。エラーから1点は失ったものの、その後は丁寧なピッチングで、当初からの予定通り5回を投げきった。
打線は1回裏に4番カレオン・ジョニル・マラリのタイムリーで同点。4回裏には6番須藤優太がヒットで出た後、二盗三盗を続けて決め、9番森田球斗の犠飛で勝ち越した。
6回表から二番手として、横浜DeNAから派遣された育成選手のレミー・コルデロが登板したが、制球に苦しみ逆転を許した。埼玉武蔵は継投で逃げ切り、そのまま2-3で制限時間終了。神奈川のホーム開幕戦勝利はならなかった。
先発の乾は「最低限です。良くもなく悪くもなく、70点の投球」と自己の投球を振り返ったが、鈴木監督は「これからも先発の柱になる」と評価する。直球と変化球で緩急を使い、8三振を奪って5回1失点。試合を作った。
マウンドを降りた後は、ブルペンで登板予定の投手の様子を確認し、ピンチにはマウンドへ声を掛けに行くなど、投手コーチとしての役目に奔走する。兼任コーチとしては、2019年の富山に続き2年目だ。関西出身だが、大学時代から関東にいたため、関東が落ち着くという。
「平塚球場はイースタンっていうイメージですから。ここでBCリーグの試合というのが、何だか新鮮でした」。
バッテリーを組んだ清田亮一捕手もベテランで、打っては2安打と攻守に存在感を見せた。BCL福井から引き続きコーチ兼任となる。ゼロから始まった新しいチームの中で、両ベテランと、初代キャプテンでBCL群馬から移籍した青木颯内野手、そしてBCL埼玉武蔵や福島を渡り歩いてきた奈良雄飛外野手など、経験豊富な選手たちが、まずチームを引っ張っていくことは間違いないだろう。
そして、経験の浅い若い選手たちが、どう育っていくかがこのチームのカギだ。とにかく素晴らしい指導者が揃っている、願ってもない環境なのだから。必死で努力し、たくさんのものを吸収し、大きな成長を見せてくれれば、新規参入初年度優勝も夢ではないだろう。
150km/hを出し、元バドミントン部ということで注目された杉浦健二郎投手、神奈川出身でWBCのフィリピン代表に選ばれたカレオン外野手など、光る素材は多く揃っている。
コルデロ、ディアス、宮城滝太の三投手、デラロサ内野手というDeNAから派遣された育成選手たちも、この日はまだ合流したばかり。
どんな選手かどうやって試合に出していくか、首脳陣が考えてチームを作っていくのはこれからだ。 フューチャードリームスには、元NPBのレジェンド首脳陣だけでなく、アマチュアの指導者として輝かしい経歴を持つコーチも名を連ねている。
林裕幸ヘッドコーチは、NPB経験はないが、日本石油、日石三菱、新日本石油、明治安田生命と、多くの社会人チームで監督を歴任。幾多の選手を育成指導し、チームを勝利へと導いた経験を持つ。
シドニー五輪では日本代表チームのコーチも務めている。当年とって65歳だが、試合前にはノックバットを握り、試合中には三塁ベースコーチに立つ。打席に向かって絶え間なく檄を飛ばす姿は印象的だ。
この日はチャンスで打てず、悔しい思いをした選手もいたが、林コーチは「寝られないほど悔しい思いをすればいい」と笑った。
「明日は休みなんだけど、後で何をしたか訊くつもり」悔しい思いをした後に、どれだけバットを振ったか。どれだけ悔しさを成長の糧と出来るのか。
「いいね、BCリーグはいい。お客さんはプレーを見に来る。アマチュアは1回負けたら終わりだから」1回負けた。悔しい思いをした。そうして、次の試合に備える。眠れないほど悔しい思いを野球にぶつけて、ひたすら野球に打ち込む。全てを野球に賭けられる環境が、BCリーグにはある。
今年はまだこのあと、同じ相手と幾度となく対戦していく。事実、リベンジするチャンスはすぐにやって来た。6/27の鴻巣では再び埼玉武蔵と対戦し、6-4で勝利した。7月に入ってからビジターで埼玉武蔵、茨城相手に連勝。ホームでの勝利もすぐだろう。
2020年のチームスローガンは「未来へ翔く夢への一歩」。それぞれが持つ翼を鍛え上げるために、指導者たちは力を惜しむつもりはない。
神奈川フューチャードリームス公式サイト