
個の力が、チームへと昇華してゆく。高校女子サッカーが舞台の「さよなら私のクラマー」
2011年、日本中がわいたサッカー日本女子代表“なでしこジャパン”のW杯優勝。サッカー日本女子代表のめざましい活躍は、大きなニュースとして普段スポーツに親しみのない人の耳にも届いたことだろう。今回取り上げるのは、そんな女子サッカーを扱った「さよなら私のクラマー」。女子サッカープレーヤーがぶつかる壁や、女子サッカーの未来を守り続けようとする選手や指導者たちの切実な思いが描かれる良作だ。※トップ画像/筆者撮影

中学で孤独だったフットボーラーが集まった弱小校・蕨青南高校
「さよなら私のクラマー」は、2016年から2020年まで「月刊少年マガジン」で連載された作品だ。コミックスは全14巻、2021年にはTVアニメ化や映画化といったメディアミックスもなされている。
2011年のFIFA女子W杯。攻守に長けた澤穂希を筆頭にスター選手もそろい、世界に日本の強さを見せつけての優勝となった。あの感動と興奮を再び、と大きな期待を背負って臨んだ2015年大会では決勝でアメリカに敗れ準優勝。十分な結果のはずだが、優勝を期待されていただけにその悔しさもやはり大きかったはずだ。「さよなら私のクラマー」がスタートした2016年、なでしこたちへの視線は一時の“熱狂”と比較すれば落ち着いていたといえるだろう。
舞台は埼玉県。中学で主将を務めながらも、周囲との関係に恵まれず敗退することとなった周防すみれは、ライバルである曽志崎緑から同じチームへ入ってプレーしようと誘われるが、曽志崎の思惑は微妙に外れ、二人は強豪・浦和邦成ではなく県内で“カモ”扱いされている弱小校・蕨青南女子サッカー部(通称ワラビーズ)へと入部する。
周防はスピードに強みをもち、サイドから攻撃を行うウイングとしての能力を見せる。曽志崎は中学時代、その周防を封じ続けたボランチ。自身のチームを全国3位へと導いた実力の持ち主で、正確なパスが持ち味だ。さらに、女子サッカー部のない中学にいたために男子サッカー部で研鑽を積んできたMF・恩田希や、元日本女子代表であり蕨青南卒業生でもある能美奈緒子がコーチとしてワラビーズへ加わり、新たなチームが動き出すこととなる。
女子サッカーに関わる人々の思いの強さを感じるシーンも
すみれは中学時代に「あんたにはついていけない」とチームメートとの心理的な離別を経験しており、いつも一人でピッチを走ってきた。希もまた、女子サッカーでの試合経験がなく、男子にまじって練習をしてきたために孤独を感じてきた一人だ。
新生ワラビーズの初戦は、全国優勝常連の強豪・久乃木学園との練習試合。U-17選手も所属する久乃木学園のフットボールのスキルに圧倒され、大量ゴールを奪われながらも、ワラビーズの少女たちは徐々に共鳴しあい、個の力を連動させることの重要さを体で学んでいく。孤独に戦ってきた選手もいつしか「一人じゃない」フットボールを目指し始めることになる。
作中にはしばしば「女子サッカーの未来」という言葉が登場する。あの熱狂を知っている現実世界でも、女子サッカーの人口が男子と比較すると非常に少なかったり、注目度が低かったりといった課題を抱えているのが現状だ。コーチの能美はそれをプロの世界で実感してきた人物として描かれ、「私たちが負けてしまったら、日本女子サッカーが終わってしまう」とまで口にしている。
熱しやすく冷めやすい観衆の興味を、どうすればこの競技にとどめられるのか――。指導者やスポーツに関わる人すべてがぶつかる課題かもしれないが、能美の言葉は特に印象的だ。一方で、女子サッカーの未来を託されるワラビーズやライバル校の選手たちへの重圧も感じることができる。希はかつて所属していた中学男子サッカー部の監督から「もう一度女子サッカーを世界一にしてこい」と、高校からは女子サッカー部に所属するよう背中を押されている。希がより活躍できる場所へと導く言葉でもあるが、とらえようによっては希の背中に「日本の、女子の未来」を背負わせてしまう呪縛のようにも感じられる。
物語が進むにつれ、希はその違和感を言葉にし始める。「女の子は楽しんでサッカーやっちゃいけないの?」ただ楽しくサッカーがしたい、そんな希の思いもまた読者の胸をえぐる。
学校ごとの“哲学”を感じるプレースタイルにも注目
試合を経るごとに、さまざまなプレーヤーやサッカースタイルとの出会いも描かれる。
曽志崎の1歳上の先輩で、曽志崎とのコンビ復活を夢見て自分のチームへ誘っていた桐島千花を擁する浦和邦成では“堅守”を超えた鉄壁の守備がその攻撃を阻み、全国優勝常連の久乃木学園はボール支配率を高く維持するポゼッションサッカーを志向する。一人の傑出した選手によってゲームの空気を支配する栄泉船橋、さらに完成されたシステム運用によって攻守ともに高いレベルのサッカーを構築してきた新進チーム・興蓮館など、ワラビーズが実力を磨けば磨くほど、彼女たちは「絶対に勝てる弱小校」から「研究・分析すべき強敵」として周囲の視線を集めることとなる。
「さよなら私のクラマー」は、オフサイドやフリーキックといったサッカーの基本用語やルールの解説、さらにサッカー史に残る偉人やスター選手といった固有名詞の説明をほとんどしていない。それゆえに、サッカーに親しみのない読者には難解な用語や耳慣れない言葉も多い。だが、その意味を調べながら読み進めるうちにサッカーという競技の面白さ、奥深さに気づかされたり、その歴史の豊かさに気づくきっかけとなることも多い。選手の動きやポジションといった戦術も学校ごとにどこか尖った特徴があり、それらが試合ごとに異なった見どころを生み出し、ワラビーズの選手たちのめざましい成長のきっかけとしても作用している。
サッカー漫画といえば男子チームのものが多いかもしれない。だが、女子サッカーの漫画もこんなに面白い。では、現実の女子サッカーも面白いのではないか?そんな風に興味を呼び起こしてくれる作品だ。

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