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「ハイキュー!!」少年漫画の王道でありながら、丁寧なキャラクターメイクに注目

スポーツを題材にした漫画やアニメはあまたあるが、今回取り上げたいのは高校の男子バレー部を舞台にした「ハイキュー!!」だ。2012年から週刊少年ジャンプで連載がスタートし、2020年に連載は完結。これまでに4シリーズのTVアニメ化に加え、2024年に公開された劇場版が興行収入100億円超えの大ヒットを記録するなど、2010年代を代表するスポーツ漫画として知られる本作は、なぜここまで愛されたのか。 ※トップ画像/筆者撮影

Icon 20190710 dscf0362 middle 藤堂真衣 | 2024/10/17

バレーボールで全国を目指す男子高校生たちの物語

主人公の日向翔陽は、小学生のときに偶然「春高バレー」(春の高校バレー 全日本バレーボール高等学校選手権大会)のテレビ中継を見る。そこで自分と同じように小柄な選手が「小さな巨人」という異名を得て活躍する姿に憧れ、バレーボールの魅力にとりつかれていく。中学校では人数不足で男子バレー部がなく、公式大会への出場機会は引退試合となった3年生の1度のみ。それでもバレーに対する情熱が冷めることはなく、憧れの「小さな巨人」が所属した烏野(からすの)高校を選び、男子バレー部に入部する。

日向を待っていたのは中学時代に唯一出場した公式戦で激しくぶつかりあったセッターの影山飛雄をはじめとする、ひと癖もふた癖もある部員たち。ときに対立しながらも、烏野は1年生を加えた新たなチームとして成長し、強豪校としての復活と全国大会制覇を目指していく。

一人ひとりに奥行きのある、丁寧なキャラクター作り


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イラストはイメージです

スポーツ漫画といえば、外せないのがチームメイトやライバルの存在だ。「ハイキュー!!」にももちろん魅力的なキャラクターが数多く存在している。

烏野高校で再開したセッター・影山とは、スピードを求める影山のスタイルと野性的ともいえる反応速度をもつ日向の特性がうまくかみ合い、初めて見る者の度肝を抜くスピード技“変人速攻”を武器に、烏野に欠かせない戦力となる。

同じ1年生であるミドルブロッカー・月島や、強烈なスパイクが武器の3年生・東峰、物語の後半ではセッター的な働きも会得する2年生リベロ・西谷など、烏野高校のメンバーはそれぞれに強みを持っている。強みだけではない、過去に抱えた影や弱点もある。メンバー同士や対戦相手とのやりとりを通じてそれらの弱点と向き合い、強さへと変えていく姿が読む者の胸を打つ。
烏野が全国制覇を目指すうえで無視できないのが、影山の中学時代の先輩である及川徹を要する青葉城西や、全国レベルのウイングスパイカー・牛島が率いる白鳥沢、烏野の監督と並々ならぬ因縁のある音駒といった数々のライバル校だ。彼らはそれまで天性の運動神経に頼って戦ってきた日向がぶつかる高い壁でもあるが、彼らにもまた歩んできたバレー人生があり、ひたむきにバレーに向き合ってきたからこそ苦悩したこと、その経験によって得た力がある。

対戦相手を単なる“倒すべき敵”として描くのではなく、ライバルたちにもスポットを当てるのはスポーツ漫画でもよく見られるが、「ハイキュー!!」でも日向たちのライバルの生い立ちやバレーに対するスタンスが丁寧に作り込まれており、いずれのキャラクターにも“奥行き”が感じられる。

人物の造形や行動原理には、漫画らしいディフォルメがなされているのに「作り物」感が出ないのは、こうしたキャラクター一人ひとりの細やかな設定づくりの賜物だろう。

さらに特筆すべきは、バレーに打ち込む男子高校生たちを支える人々の存在だ。監督に顧問、マネージャー、そして家族。ときにキャラクターの葛藤のもとになることもあるが、またあるときには成長の助けとなり、試合の場では大きな力となることも多い。試合のシーンでは応援席に座る人々の姿も大きく描かれ、より多くの人がバレーボールを通してつながっていることも感じられる仕掛けになっている。

青春をかけた戦いのあとも、人生は続いていく


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イラストはイメージです

「ハイキュー!!」が押しも押されぬヒット作品になったことは、漫画やアニメのファンのみならず、実際にバレーボールをプレーする選手のなかにもファンを生み、長くバレーを愛してきた人にも受け入れられている点から感じ取れる。日本代表を務める選手たちが作品のことを口にし、「推し」のキャラクター名を挙げる姿も見られた。漫画やアニメのファンだけに閉じられたものではなく、実際にバレーボールに携わる人にも愛される、稀有な作品といえるだろう。

「ハイキュー!!」は、日向と影山の属する烏野高校が春高バレーでの全国制覇を目指すストーリーが軸になっている。だが、物語は春高の閉幕後も続き、日向たち烏野メンバーのその後や、烏野高校とし烈な戦いを繰り広げた強敵たちの姿も描かれる。多くの高校生バレーボールプレーヤーにとって夢の大舞台である春高だが、そこで物語は終わらないのが現実だ。大会の後も人生は続くし、バレーを続ける人、別の道を歩み始める人、一人ひとりの未来を進んでいくことになる。
「ハイキュー!!」も同じように、春高バレーを終えてからの彼らを見ることができる。プロ選手を目指してバレーボールに向き合い続けたキャラクターもいれば、全く異なる進路を選んだキャラクターもいる。全国制覇を目指して戦った春高、その後に続く彼らのバレーボール人生をかいま見ることができるのは、まるで“ご褒美”のような時間でもある。2024年のパリの舞台にも、もしかすると彼らはいたかもしれない。そんな錯覚を起こしてしまうほど、「ハイキュー!!」はリアルな存在感を備えた作品なのだ。


Illustration by Vaguely