「I’ll」バスケットボールを通してつながる少年たち。キャラクターのドラマ性が魅力
10月、バスケットボールの国内プロリーグであるB.LEAGUE(以下Bリーグ)が開幕した。2024パリオリンピックでも連日、日本代表の試合が放映され、応援の声で盛り上がっていたバスケットボールは、国民的ヒット作が生まれるほど、漫画の題材としてもよく描かれる競技だ。今回ご紹介したいのは、高校の男子バスケットボール部を舞台とした「I’ll」(浅田弘幸)だ。※メイン画像:筆者撮影
藤堂真衣
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2024/10/30
「バスケは中学で辞める」と決めていた二人の高校生
「I’ll」は月間少年ジャンプで1996年から2004年まで連載された作品で、作者の浅田弘幸は「I’ll」に続き連載していた「テガミバチ」などでも知られている。90年代後半に描かれた作品とあって、現代とはバスケットボールのルールも異なり、また登場する人物の台詞や設定にもやや時代を感じる部分があるものの、当時を過ごした人には「懐かしい!」と感じられるかもしれない。
物語の舞台は神奈川県。主人公の立花茜は、中学生活最後となる練習試合に臨んでいた。そこに現れたのが対戦相手チームの一人、同じく3年生の柊仁成。柊は出場するやいなや、マークについてきた茜を殴り、茜もそれに応戦。乱闘騒ぎとなり、中学最後のゲームは幕引きとなった。
茜は中学の部活で上下関係やチーム内での忖度(そんたく)といった立ち回りが求められるバスケットボールに嫌気がさしており、「もっと純粋にバスケットを楽しみたかった」と感じ、バスケットを辞めると決めていた。
柊はバスケットボール強豪校の指導者である父と、大学選抜に入っている兄をもつ“バスケット一家”の出身。勝つためのバスケットを叩きこまれるも、その窮屈さから、茜と同じようにバスケットボールから離れる覚悟をしていた。
そんな二人が進学先に選んだのが、バスケットボールでは無名の「国府津(こうづ)高校」。偶然にも同じ高校で再開した二人は、紆余曲折を経てバスケットボール部へ迎えられ、互いの力を認めるようになり、国府津高校バスケットボール部としての高みを目指していく。
物語の舞台は神奈川県。主人公の立花茜は、中学生活最後となる練習試合に臨んでいた。そこに現れたのが対戦相手チームの一人、同じく3年生の柊仁成。柊は出場するやいなや、マークについてきた茜を殴り、茜もそれに応戦。乱闘騒ぎとなり、中学最後のゲームは幕引きとなった。
茜は中学の部活で上下関係やチーム内での忖度(そんたく)といった立ち回りが求められるバスケットボールに嫌気がさしており、「もっと純粋にバスケットを楽しみたかった」と感じ、バスケットを辞めると決めていた。
柊はバスケットボール強豪校の指導者である父と、大学選抜に入っている兄をもつ“バスケット一家”の出身。勝つためのバスケットを叩きこまれるも、その窮屈さから、茜と同じようにバスケットボールから離れる覚悟をしていた。
そんな二人が進学先に選んだのが、バスケットボールでは無名の「国府津(こうづ)高校」。偶然にも同じ高校で再開した二人は、紆余曲折を経てバスケットボール部へ迎えられ、互いの力を認めるようになり、国府津高校バスケットボール部としての高みを目指していく。
茜と柊を軸に、急成長を始める国府津高校バスケットボール部
茜と柊はタイプは異なるが、二人とも卓越したバスケットスキルを持つキャラクターだ。
茜は野性的で感覚に特化したプレイをする。飛びぬけた跳躍力でシュートを決める姿も多いが、ムラがあり“ノれない”ときにはとことんポンコツ化し、プレーが雑になることも多い。部活のバスケには面白さを感じられなかったものの、柊の高いテクニックを目の当たりにして、柊とプレーすることに興味を持ち、彼をバスケットボール部へと誘うことになる。
そんな茜の求めるプレーに応えるのが、柊だ。父と兄によって技術を磨いてきた柊のプレーはスキがなく、スマート。速さもあり、いつでも安定したパフォーマンスを発揮できる。柊もまた自分の求めるプレーをできるチームメイトの不在、そして家族からのプレッシャーにいら立ち、試合を壊すことでしかそのフラストレーションを発散できずにいたが、国府津高校で茜とともにバスケットをすることで家族の呪縛から少しずつ解放され、バスケットの純粋な楽しさに目覚めていく。
茜と柊を軸としながらも、国府津高校のメンバーも個性派が多い。ケガで離脱しているキャプテンの代理を務める金本は、気が弱いものの戦略に長ける頭脳派。チームに合流してくるシューティングガードの東本(はるもと)はスリーポイントの名手など、それぞれに得意なポイントがあり、また物語が進むにつれてその技術をさらに磨き上げ、弱小校だった国府津は公式試合でも通用するチームへと着実にレベルアップしていく。
茜は野性的で感覚に特化したプレイをする。飛びぬけた跳躍力でシュートを決める姿も多いが、ムラがあり“ノれない”ときにはとことんポンコツ化し、プレーが雑になることも多い。部活のバスケには面白さを感じられなかったものの、柊の高いテクニックを目の当たりにして、柊とプレーすることに興味を持ち、彼をバスケットボール部へと誘うことになる。
そんな茜の求めるプレーに応えるのが、柊だ。父と兄によって技術を磨いてきた柊のプレーはスキがなく、スマート。速さもあり、いつでも安定したパフォーマンスを発揮できる。柊もまた自分の求めるプレーをできるチームメイトの不在、そして家族からのプレッシャーにいら立ち、試合を壊すことでしかそのフラストレーションを発散できずにいたが、国府津高校で茜とともにバスケットをすることで家族の呪縛から少しずつ解放され、バスケットの純粋な楽しさに目覚めていく。
茜と柊を軸としながらも、国府津高校のメンバーも個性派が多い。ケガで離脱しているキャプテンの代理を務める金本は、気が弱いものの戦略に長ける頭脳派。チームに合流してくるシューティングガードの東本(はるもと)はスリーポイントの名手など、それぞれに得意なポイントがあり、また物語が進むにつれてその技術をさらに磨き上げ、弱小校だった国府津は公式試合でも通用するチームへと着実にレベルアップしていく。
多彩なキャラクターが織りなすドラマにハマる!
「I’ll」の魅力はバスケットボールを通してキャラクターたちが成長する姿が描かれる点にある。中学時代にケガをしたチームメイトへの後ろめたさからバスケットボールと距離を置いている東本や、その原因となった東本のかつてのチームメイト・原田。ケガでバスケットボールを続けることは絶望的なキャプテン・山崎など、バスケットへの思いをこじらせてくすぶっているキャラクターが登場するたび、茜は彼らにさまざまな言葉を投げかけていく。その言葉に突き動かされるように、彼らは自分が抱えてきたものと向き合ったり、足かせとなっていたものを捨てて、バスケットボールの世界へと戻ってくる。
柊をコートへ引き戻したのも茜の言葉だった。体育館の2階席から国府津高校と県内ベスト4の葉山崎高校との練習試合を観ていた柊に茜は「高すぎてパスが出せねーよ」と声をかける。柊は瞬時にその言葉の意味を理解し、「そこで待ってろ」と応えて、試合に参戦する――。「漫画かよ!」とツッコミたくなるが、漫画だからこそできる熱い展開が「I’ll」にはあふれているのだ。
シンプルな線で構成される浅田の絵柄は、ともすれば暑苦しくなりがちなスポーツ漫画の熱量をほどよくクールダウンさせている。さらにそのシンプルさが、茜たちが過ごす3年間の高校生活の儚さ、尊さをも感じさせる。
チームの内輪もめ、メンバーのケガ、他校からのスカウトに揺れる部員…。そんな少年漫画の王道ともいえる展開が「I’ll」にも描かれている。だが、もしかしたら日本代表の選手たちもそんな「漫画みたいな展開」を一度くらいは経験したことがあるかもしれない。コートの中を駆ける選手たちの姿を眺めながら、「どんなバスケ人生を歩んできたんだろう?」と、そのバックグラウンドに思いを馳せるのも一つの楽しみ方かもしれない。
Illustration by Vaguely
柊をコートへ引き戻したのも茜の言葉だった。体育館の2階席から国府津高校と県内ベスト4の葉山崎高校との練習試合を観ていた柊に茜は「高すぎてパスが出せねーよ」と声をかける。柊は瞬時にその言葉の意味を理解し、「そこで待ってろ」と応えて、試合に参戦する――。「漫画かよ!」とツッコミたくなるが、漫画だからこそできる熱い展開が「I’ll」にはあふれているのだ。
シンプルな線で構成される浅田の絵柄は、ともすれば暑苦しくなりがちなスポーツ漫画の熱量をほどよくクールダウンさせている。さらにそのシンプルさが、茜たちが過ごす3年間の高校生活の儚さ、尊さをも感じさせる。
チームの内輪もめ、メンバーのケガ、他校からのスカウトに揺れる部員…。そんな少年漫画の王道ともいえる展開が「I’ll」にも描かれている。だが、もしかしたら日本代表の選手たちもそんな「漫画みたいな展開」を一度くらいは経験したことがあるかもしれない。コートの中を駆ける選手たちの姿を眺めながら、「どんなバスケ人生を歩んできたんだろう?」と、そのバックグラウンドに思いを馳せるのも一つの楽しみ方かもしれない。
Illustration by Vaguely