パリ五輪に出場できなければ代表引退…“渡邊雄太”ー覚悟してつかみ取った夢の舞台への切符
日本代表として、人一倍強い想いで日の丸を背負い戦い続ける渡邊雄太。渡邊選手の密着ドキュメンタリー『渡邊雄太 不屈の挑戦|バスケ☆FIVE 特別版』より、渡邊選手が世界で味わってきた悔しさと覚悟を胸に臨んだワールドカップの激闘を振り返る。元・日本代表の母から託された夢とは?※トップ画像出典/Getty Images
日本代表、そして共に夢の舞台を目指す両親への想い
今年4月、NBA引退会見で「今までずっと、日本代表に対して熱い気持ちをもち続けている。今後も必要としてくれる間は日本代表でプレーしたい」と語った渡邊選手。人一倍強い想いで日の丸を背負う理由の1つに、母から託された夢もあった。
渡邊選手の両親は、実業団に所属していた元・バスケットボール選手。母、久美さんは日本代表キャプテンも経験し、ロサンゼルス五輪を目指していた。しかし、当時も世界の壁は相当に高く、その夢は叶えられずに終わった。久美さんは「お母さんはもう選手じゃないけど、オリンピックに連れていってね」と自身の夢を渡邊選手に託した。
大きすぎる両親の存在は、ときに渡邊選手を苦しめることもあったという。「『渡邊雄太』というよりも、バスケットボール選手だった両親の息子という見られ方が正直悔しかった。努力しているのに、七光りみたいに見られるのは嫌だった」。
そんな渡邊選手を支えたのが、高校の恩師の言葉だった。「この3年間で2人が“渡邊雄太の親”と言われるような選手になろうという言葉をかけてくれました」と、渡邊選手は振り返る。いつか両親を越えたい。その想いを胸に努力を続け実力を伸ばし、史上最年少16歳で日本代表に選出された。
世界の高い壁、悔しさを胸に確固たる覚悟で挑んだワールドカップ
キャプテンとして、人一倍強い想いで挑んだ2019年ワールドカップ中国大会。しかし、結果は5戦全敗。渡邊選手は「何もできなかった。日本の恥だ」と悔しさをあらわにした。2年後の2021年、自国開催で出場した東京五輪。このとき日本代表は渡邊選手と八村塁選手、2人のNBA選手を擁し史上最強とも言われていたが、結果はともなわず3戦全敗。世界大会で8連敗と、世界との差を痛感した。
そして去年のワールドカップ開幕3ヵ月前、渡邊選手は衝撃の発言をする。「全敗だけは絶対にあり得ない。今回、勝てなければ代表のユニフォームを脱ぐつもりでいます」。パリ五輪出場権もかかるワールドカップで、負ければ代表引退。至る所でそれを宣言し自らを追い込んでいった。
そんな渡邊選手を、ワールドカップ本番直前のケガという悪夢が襲う。その後は強化試合に出場することなく、本番を迎えることになる。初戦のドイツ戦、渡邊選手はチームトップの20得点をたたき出しコート中を駆け回り、ファン・ブースターも“共に戦おう”と鼓舞した。試合には敗れたが、会場の観客全員を熱狂の渦に巻き込んでいった。
しかし、その活躍の裏側で、渡邊選手にある異変が起きていた。続くフィンランド戦の前日、練習どころかまともに歩くことすらできなかったと話す。「ドイツ戦の途中からずっと足がつっていて、何をしてもずっと痛かった。夜中に病院に連れていってもらってMRIを撮って、大きなケガに繋がることはないという診断だったのでチームドクターやトレーナーと話し合い出場を決めました」。体はもう、すでに限界を迎えていた。
アジア1位でつかみ取った“夢の舞台”への切符
負ければパリ五輪出場が絶望的になるフィンランド戦。日本は最大18点差をひっくり返し、17年ぶりに世界大会で勝利した。日本バスケットボール会にとっても渡邊選手にとっても、長く暗いトンネルからようやく抜け出せた瞬間だった。試合後のインタビューでは「勝った瞬間、いろんな感情が込みあげてきて、思わず涙があふれた。日本代表で日の丸を背負って、長いあいだ勝てなくて、ようやく世界大会で勝てた。とにかくうれしいです。とても大きな1勝ですがまだまだこれからなので、これで満足することなく次へ向かいます」と前を向いた。スタンドからこの勝利を見守り続けた渡邊選手の両親は「雄太はこの1勝に全てをかけていたと思います。この場所にいることができて幸せです」と話した。
次のオーストラリア戦には敗れたが、続くベネズエラ戦では、渡邊選手とともに日本代表の苦しい時代を支え続けた比江島慎選手の活躍もあり、最大15点差を逆転。
ベネズエラ戦の様子(出典/Getty Images)
パリ五輪出場に王手をかけた。そして迎えた最終カーボベルデ戦。勝てばパリ五輪出場が決まる1戦で、渡邊選手は満身創痍の体で最後の力を振り絞り戦っていた。日本は80‐71で勝利しアジア1位に。48年ぶりに自力で夢の舞台への切符をつかみ取り、ついにパリ五輪出場を決めた。
代表引退を撤回!仲間への感謝の想いと果たした約束
渡邊選手は自分自身にかけていたプレッシャーに不屈の精神で打ち勝ち、自らの手で代表引退を撤回した。「本当に今回で日本代表が最後になるのではないかと思っていました。正直大変なグループでしたし…チーム全員が苦しいときでも頑張ってくれた。仲間のおかげです」と共に戦った仲間への感謝の気持ちを吐露した。
激闘の翌日、両親と会う渡邊選手の姿があった。家族で挑戦し続けた夢の舞台、母の夢も叶えることができた。渡邊選手は「両親が“渡邊雄太”の親だといつか言われるようになりたい」という目標もいつのまにか叶えていた。
『渡邊雄太 不屈の挑戦|バスケ☆FIVE 特別版 #2 日の丸への想い』より
配信日:2024年7月1日(月)~ 全3回3夜連続配信
※記事内の情報は放送当時の内容を元に編集して配信しています