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大谷翔平インタビューでの「“たまたま”」は「偶然」と訳す?文脈から考える“より自然な英語”とは

たった数分のインタビューの通訳でも、より良い訳にするためにー。日々 スポーツ通訳による観戦がもっとリアルに楽しくなる英語講座。選手インタビューでよく耳にする「たまたま今日は調子が良かった」「たまたま良い場面でヒットが打てた」「たまたま得点に繋がった」というフレーズ。それぞれの“たまたま”は全部同じ英語で訳してしまって大丈夫だろうか?選手が伝えたいことを、より近いニュアンスで伝えるために、今回は大谷翔平選手のインタビューより、“文脈を読むことの難しさと大切さ”にフォーカスして考えていく。※トップ画像出典/MLB Photos via Getty Images

Icon 240910 02 01 1 佐々木真理絵 | 2025/02/14

大谷翔平の「たまたまじゃないかな」は「偶然」を意味しているのか?

2024年10月14日に行われた、同月13日に始まったナショナルリーグのリーグ優勝決定シリーズのドジャースvsメッツの試合終了後の大谷のインタビュー。大谷の活躍もあり、試合は9対0でドジャースが勝利した。

そのインタビューでインタビューアーから大谷に向けてこんな質問がなされた。


「得点につながるヒットを打てた要因はなんですか?」


その質問に対しての大谷の回答は次の通りだ。

たまたまじゃないかなとは思うので…。チームとして得点圏に多くチャンスメイクしてくれているので、自分自身がより集中できている要因かなと思います」


“たまたま”の英語表現は?

"It's just by chance."

"It's just a coincidence."

"It was just luck."


パッと思いつくだけでもこれだけある。

しかし、たしかにどれも「たまたま」を意味する表現なのだが、これだと「偶然的に」、つまり“ラッキー”だった、というニュアンスを強くなってしまうのだ。

重要なのは“文脈”を読むこと

このインタビューで大谷は、先のコメントと合わせて、

「チームメイトがそういう状況を作り出してくれたから“たまたま”自分が得点圏で打つことができた」というチームメイトの功績を讃えるコメントを残しているのだ。


つまり、彼の発した「たまたま」は単なる“偶然”や“運(ラッキー)”ではなく、チームメイトの貢献によって生まれた結果としての「たまたま」であるといえそうだ。であれば、そのニュアンスを汲み取って適切な英訳を選びたいところだ。

大谷“たまたま”を英訳するなら…?

"It just happened that way, ------"
"It worked out that way, ------"

私ならこのふたつのいずれかを選ぶ。この表現は「偶然」というよりも、
「結果的にそうなった」という、“自然な流れや状況の結果として起きたことを意味する。

「運が良かった」ことを強調するよりも、「チームの働きによるものだった」という部分の表現につながるものを選ぶのがポイントだ。


たったひとつの単語でも、通訳者は文脈を読み取り、ぴったりの言葉を自分の引き出しから出せることが理想だ。

引き出しにたっぷり表現のストックを詰め込んでおくためにも、日々の勉強が欠かせない。

そうすれば本当に“たまたま”良い表現が出てくるかもしれないのだから。